HOKURIKU REGION DANCE FESTIVAL 2025
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北陸Regionダンスフェスティバル2025


事業について
[概要]
北陸唯一の公募型アーティストinレジデンス及びフェスティバル。全国から実力あるアーティストを公募/ 選考を経て採択し、石川県の「各地域」に招聘する。また海外からのアーティスト招聘枠を設け、地域の国際交流化を図る。
地方のオルタナティブスペースを活用した文化芸術活動を行う事で、地域住民が多様な表現を身近に感じられる場を作り、地域の人々を交えた活動によって地域振興および復興支援を行う。特に被災地では、アーティストと市民の対話の場づくりや体を動かすワークショップの開催など、被災した人々とともに心身をケアし活力を取り戻すための取り組みを行う。
それら活動の全てをWebサイトやSNSによって配信する事で、北陸や石川の今まで知られていなかった魅力および被災地の情報を世界に発信するとともに、被災地ではその現状を正しく伝え、必要な支援が行き届くような情報発信も行う。
[詳細]
- 全国および海外よりアーティストを募り、石川県の能登地方(珠洲市・七尾市、他)や県内の様々な地域に招聘し、約一週間現地に滞在しながら地域のオルタナティブスペースを活用し、滞在制作を行う。
- アーティストの選定及び採択は、それぞれの地域にゆかりのある人々の意見を交えて行う。
- 海外からもアーティストを招聘し、これまでコロナ禍で控えられていた国際交流を促進する。
- 滞在先ごとに地域にゆかりのあるアーティストにサポートを依頼し、作品の共同制作を行いながらそれぞれの地域に適した活動内容に結びつけて実践する。
- アーティストと地域住民との対話の機会を設け、地域の文化や歴史の採掘と保護につなげるとともに、被災地では現地の人々の心のケアを行う。
- アーティストによるワークショップ等の開催により、地域の人々の身体的な健康の促進を図るとともに、被災者の活力を醸成する。
- 滞在の最終日には制作作品の発表として公演を行い、また終演後にはアーティストと参加者・住民との交流の場を設ける。
- アーティストがその地域において行った活動を通して得られた感想、意見を元に、地域ごとの課題や可能性について、各地で関わった人々が一同に介する意見交換の場を設ける。
- 事業終了後に記録映像を無料配信し、石川県及び北陸地方の新たな魅力として全国・世界に向けて発信するとともに、被災地の情報を伝える。
[事業実施スケジュール]
- 2024年8月 New Dance for Asia視察、海外招聘アーティスト決定
- ~12月 滞在場所視察
- 2025年1月 滞在場所/サポートアーティスト決定、技術スタッフ確保
- 1~2月 滞在アーティスト募集
- 3月 招聘アーティスト決定
- 3~4月 パブリシティ準備
- 5月 広報活動開始
- 5~6月 スタッフ打合せ・アーティストとの打合せ
- 6月 公演チケット等販売開始
- 7月 北陸Regionダンスフェスティバル2025実施
- 7~9月 映像編集・オンライン配信、事業報告書の作成
[本活動の目的]
本活動の目的は、日本全国から公募により募集した、多様な表現のオリジナリティと様々な経験を持つアーティストを県内の各地域に招き、コンテンポラリーダンスにより県内の地域と全国をつなぐと共に、地域コミュニティの活性化を担い、人々の心身の健康促進、観光や地域振興に繋げることである。
また、アーティストと現地の人々が文化交流する中で、地域社会に芸術的な刺激を与え活性化を促すこと、アーティストと現地の人々の双方に対して新しい視点やアイデアが生まれること、など、長期的に見ても持続可能な発展や活性化を地域にもたらすことも目的としている。
特に被災地(能登地方)では、地域住民の心のケア・コミュニティの再生・地域の文化や歴史の保存と伝承、など、被災地復興に寄与することを目的とし、被災者の方々の前向きなエネルギーを醸成するとともに、本事業を通して被災地の現状や必要な支援を広く発信し、外部からの適切な協力を得られるようにする。
また国際的な交流を通じ、被災地の復興支援に対する国際的な関心を引き寄せることも目的とする。
[主催団体「北陸つなげて広げるプロジェクト」経歴]
2015年北陸新幹線開通を機に発足、貴財団の助成によりIshikawa Dance Festivalを開催。
以降”アーティストと市民”が主体となり、「北陸地方唯一のコンテンポラリーダンスフェスティバル」として毎年ダンスフェスティバルを継続開催してきた。このダンスフェスティバル事業を通して、新進気鋭の若手ダンサーや、北陸にゆかりがあり海外でも活躍するアーティストなど、日本全国から合計約100組のアーティストを石川県に招き、金沢市内の劇場で作品上演を行った。令和5年11月には貴財団の助成を受け、通算9回目となるダンスフェスティバル事業開催を「いしかわ百万石文化祭2023(国民芸術祭)」の1プログラムとして行い、過去最大規模の北陸ダンスフェスティバル開催となった。
その他、コンテンポラリーダンスを知るためのレクチャーや市民参加型の作品の上演等、市民がより舞台芸術を身近に親しむことが出来る機会を作るため、事業内容に創意工夫を凝らしてきた。コロナ禍においては”無観客ライブ配信”や”鑑賞の新様式”に取り組みながら事業を継続し、石川県の舞台芸術の火をを絶やさず、その発展へ貢献してきた自負がある。
劇場型ダンスフェスティバル事業の継続開催を行ってきたことで、石川県および北陸地方の魅力を全国の人々に伝えることができた。また着実にコンテンポラリーダンスを含む舞台芸術と市民の距離は縮まった。
一方で、継続故に見えてきた課題「地域の人々とアーティストとの壁」に取り組むため、貴財団の助成を受けて、今年度(令和6年)はアーティストが地域の”まち”に滞在して人々と関わりながら創作を行うアーティスト・イン・レジデンス(AIR)を事業内容とした「北陸Regionダンスフェスティバル」を企画し実施している。今後とも「この場でしか生まれないつながりを築き、創造の力で発見や感動を生み出す」事業の実現を目指すと同時に、県内外の文化芸術の輪の広がりと繋がりを強化してゆきたい。
[事業起案に至った理由・課題]
これまで劇場型ダンスフェスティバル事業の継続により着実に成果を残してきた事は確かだが、石川県内の地方や地域の人々とのかかわりを広く、深く醸成するという点ではまだまだコンテンポラリーダンスの可能性を生かしきれていないという面がある。この課題を解決するべく、前回に引き続きAIR形式での「北陸Regionダンスフェスティバル」を実施する。
これまでに”前例”のないことをアートに触れる機会のなかった地域の人々に受け入れてもらうには、”前例”そのものを作っていく努力が必要であることを常に感じている。また、隣の地域で起こったことでも、実際に自分の地域で起こらなければその意味や価値を理解しにくい、という人々の特性もある。そのため、事業実施の必要性のある地域を探し、この事業を多くの場所で行うこと、そして継続しなければならないと感じている。
地域において、文化の多様性と豊かさの促進、創造性と表現力の育成、コミュニティの活性化、身体的な健康の促進、観光や地域振興の活性化、などに加えて「廃れていく地域の文化や風習などを掘り起こし、次世代に伝えていくこと」や「地域の新たな魅力を発掘すること」を、この事業が行なっていくべき取り組みだと思うに至った。
また、令和6年1月1日に起こった能登の大震災により、前回は能登地方での事業実施を断念せざるを得ない状況となってしまった。その後も大雨などの災害が続き、様々な理由で復興が進まず、人々の生活再建への支援の課題も山積みではある。そのため、被災した人々の心身のケアにまで支援は行き届いていない状況がある。この課題に対して当事業は、来年度には能登地方での事業実施を実現させ、被災地復興支援の一環として地域住民の身体と心のケアの推進と地域の伝統文化の保護に努める活動を行うものである。
ARTIST PROFILE
[能登町×ドイツ]:Marie Hahne (マリーハーネ)
制作場所:土とDISCO 滞在場所:義本邸 サポーター:ちびがっつ 協力:SANA(土とDISCO女将)

1993年、ドイツ・ベルリン生まれ。ヴァイセンゼー芸術大学(ベルリン)で 舞台美術と衣装デザインを学 び、その後、広島市立大学 で 現代美術 を専攻。2018年より、神奈川とベルリンを拠点に コミュニティア ートおよびパフォーマンスアート の分野で活動を展開している。 彼女の作品は、ストーリーテリング、動き、声、視覚的要素 を融合させた 「ハイブリッドな翻訳」を試みるものであり、しばしば 演劇 の要素を取り入れている。その創作空間は、観客が能動的に関与できる イン タラクティブな舞台となる。作品の中では、親密な瞬間と皮肉な距離感の狭間 に自ら身を置き、観客がより近づき、探求することを促す。
タイトル「 回復と発見(Recovery and Discovery)」
【創作ノート】
人生は私たちにさまざまな驚きをもたらしますーそのすべてが嬉しいものとは限りません。しかし、視点を変えてみることで、困難が思いがけず「共に祝う場」へと変わることもあります。
この《Recovery and Discovery》は、能登での短くも深い滞在の中で生まれた作品です。私は地域の方々~4歳から77歳までの幅広い年齢の方々~とともに、フィジカル・シアターやパフォーマンスアートを通して、能登の土地と時間を探索しました。
地震の爪痕が今も残る風景の中、青いシート、延期になった祭事、そして再建に向かうトラックの音が響く中で、喪失と再生、その両方にかたちを与えるパフォーマンスが生まれました。







[金石×韓国]:Ko il do (コ・イルド)
滞在・制作場所:金石町家(仮) アシスタント:イム・ジェホン (임재홍) サポーター:上野 賢治 協力:門阪翔大(金石町家(仮))

韓国を拠点に活動する振付家。日常生活の中にある動きや感情をもとに、ジャンルにとらわれない自由なスタイルで独自のダンス作品を創作。人生と芸術のつながりを大切にし、他分野とのコラボレーションや空間 演出にも積極的に取り組んでいる。
韓国芸術批評家協会「ヤング振付家賞」受賞。 MODAFE、SCF、NDAなど、国内外の国際ダンスフェスティバルに多数招聘。 新しい表現に挑みながら、観客と出会う“場”を創り続けている注目のアーティスト。
タイトル「 金石との初めての出会い 」(내가 처음 만난 가나이와/First time meet Kanaiwa)
【創作ノート】
本作品は、韓国人の振付家が金石地域で「見て、聞いて、体験したこと」をもとに創作されたダンス作品です。日本語、金石の人々の優しさ、祭りの起源、神や妖怪といった要素を通して、振付家はこの地の伝統や文化に触れました。そしてそこから感じ取った「この土地の過去の人々が、感じ考え、願ってきたこと」が現代にどのように受け継がれているのか。また、韓国から来た“私たち”がそれをどのように感じ、捉えるのかについて考察し、舞台上で再解釈・表現した作品です。





OVERALL
総評
黒澤 伸(金沢芸術創造財団)
今回のフェスティバルで招聘された二人のアーティストには、いわゆる ”素直さ” を感じています。成果発表を拝見したのみですが、その地に滞在して自分が見たもの、見えているもの、たぶん日本の人だったら比較的日常に近いもの、例えばブルーシートという何も珍しくもないものなど、言って見れば当たり前のものが作品の大切なモチーフとして出てくるというナチュラルさ、私たちにとって特別ではないものがふっと作品中に現れることが、とても面白く、もしこれがもっと長い滞在だったらまた違ったものになるのでしょうが、ほんのわずかな時間に見たものがこの様に化けて出てくる。化けて出て来るとそれらは特別なものとなり、どちらのパフォーマンスも「これは見たことない」というものになっていました。短期間の滞在だからこそリアルで自然体なパフォーマンスになったと思いました。
アーティスト・イン・レジデンスという言葉はある意味では “わざとらしい” 言葉です。「アーティスト」というと大袈裟な感じもします。でも実際には人と人としてすごくナチュラル、ごく自然なコミュニケーションというのかやり取りというのか・・・ができていたのだと感じられて、それがこの事業の良さなのだと思いました。


乗越 たかお(フェスティバル公認アドバイザー)
実りのある成果を聞くことができて良かったです。今回応募で寄せられた企画内容はどれも非常に多彩な魅力に溢れていました。北陸という場所の文化や震災の状況を理解して、そこにアートを通してより深く知りたいという作品がいっぱいあって、本当にこのフェスの未来に希望が持てると思っているところです。
この北陸Regionダンスフェスティバルはみなさんが思うダンスフェスティバルとはイメージが違うかもしれません。しかし”ダンスとは何か、フェスティバルとは何か”という定義や使命は日々進化しています。そのような中でこの事業は世界でも最先端のダンスフェスティバルだと言えます。
かつてフェスティバルとはいわば作品の売買の場であり、パフォーミングアーツ・マーケットなどとも言われていたものです。しかし、今はもうそれだけではなく、ダンスのあるいはアーティストの創造環境を改善していくことを重要な使命の一つとしてフェスティバルの責任が考えられるようになって来ました。アーティストは作品を作るだけではなく、作品を通してダンスとは何か、その国の文化とは何かをより深めていく。そのための場としてフェスティバルが必要である、というのが今の世界のダンスフェスティバルの大きな潮流です。
ダンス自体も一昔前までは「一部の特別な訓練を受けた人だけが劇場という閉鎖された空間で見せるもの」というイメージだったと思うんですが、今は違います。ダンスは日常に溢れている、日常の中にダンスが息づいている、アーティストも劇場の中だけで生きていくのではなく社会の中・人の中に入っていく、そして今生きているリアリティを作品化していく。それが本当の意味でのコンテンポラリー(同時代性)ということになります。
単なる作品の売買ではなく、見知らぬ土地に行ってその土地の人々と交流することの重要性は世界中で認識されています。日本の中ではこのフェスが先駆けて取り組んでいると言えるでしょう。
能登地方は100年に一度と言われるほどの震災に見舞われましたが、そこから立ち直ろうとする人たちと接すること、そのような場面に触れることは普通あまりない経験であり、アーティストにとっても千載一遇のフェスティバルだと思います。
今年参加したアーティストも言っていたように、生活の大切さを再発見すると同時に、生活の中にダンスもアートも実はあるんだということを、お互いに発見していくフェスになっていくでしょう。
この北陸Regionダンスフェスティバルは芸術監督が一生懸命やっていて、それをいろんな人が支えサポートしている、この体制自体がとても素晴らしいことだと思います。これからどんどん、いろんな国のいろんなアーティストと、さまざまな価値観がここで交流するような素晴らしいフェスになってくれると思っています。そこに僕も微力ながら協力させていただきます。

[事業をを終えて]
宝栄 美希(フェスティバル芸術監督)
昨年度から、アーティスト・イン・レジデンスという新たな形で事業を実施し始めました。今回は、初めて海外からアーティストを招聘し、さらに震災直後で先の見えない状況の中能登町での開催に挑戦するという、非常に不確定な要素の多いプロジェクトとなりました。
心配性な私は、信頼できる方々にサポートやスタッフをお願いしました。その結果、どちらのチームでも私の想像を超える交流や発見が生まれ、最終的な成果発表に至るまでのプロセスそのものが、大きな意味を持つことを実感しました。
招聘した2名のアーティストの作品や活動からは、滞在地域やそこに暮らす人々への深いリスペクトが感じられました。とりわけ、観客を置き去りにしない丁寧な演出がとても印象的で、素晴らしいと感じました。私は現場に頻繁に足を運ぶことはできませんでしたが、現地での出来事を聞くたびに、想像をめぐらせ、胸が熱くなりました。
文化芸術活動を通じて、地域や被災地を支援するという取り組みについて、私はいつも「本当に地域の人々のためになっているのか」「自己満足に終わっていないか」と自問しています。
今回の事業では、現地の人々がアーティストと出会い、交流する中で、新たな関係が生まれたり、地域の人々が普段は見せない一面を見せてくれたりする場面が多く見られました。そうした「人と人とのつながり」が生まれること自体に、大きな意味があると感じました。目に見える成果やアウトプットだけでなく、プロセスの中で築かれる信頼や対話こそが、かけがえのない成果だったと思います。
また、成果発表の公演では、会場の広さや立地の関係で多くの人が立ち会うことはできませんでしたが、その場にいた観客の気持ちが確かに動いたことは、間違いありません。アーティストと観客の間に、その瞬間にしか生まれない大切な何かが、たしかに共有されていたと感じます。
予測できない状況だったからこそ、予想以上の結果が得られた今回の経験に、心から感謝しています。もちろん、毎回こううまくいくとは限りませんが、それでもアーティストやスタッフ、地域の協力者を信じて任せられるような仕組みこそが、理想的なあり方だと改めて思いました。そう感じさせてくれた皆さまに、深く御礼申し上げます。
この事業のように、アーティストが地域にじっくりと関わる取り組みは、単発のイベントと比べて、より深く人々の記憶に残り、個人への影響も確実に生まれます。一度に多くの人や物を動かすことは難しいかもしれませんが、だからこそ地道に継続することが大切であり、それが地域に定着していく確かな道だと思います。
アーティストが地域に関わろうとし、地域の人々がそれを受け入れようとする―そんな双方の働きかけがそれぞれの土地で起こることで、お互いが育ち、変わっていくのだと思います。
これからも、「本当に地域や人々のためになっているか?」という問いを常に心に持ちながら、アーティストが力を発揮でき、関わるすべての人が安心と信頼を感じられる体制づくりに、力を尽くしてまいります。

